活動報告

 世界保健機関(WHO)の統計によると、下痢症による世界の年間死亡者数は約180万人に達し、その大半は開発途上国における5歳未満の乳幼児となっています。
 岡山大学インド感染症共同研究センターがあるインド国は、とりわけ下痢症の多い国の一つです。
 インド国は発展目覚ましい新興国ですが、下痢原因微生物に関する検査体制が十分には確立されていません。また下痢原因微生物に関する正確な情報の収集も困難な状況です。

 当センターでは、コルカタ市にあるインド国立コレラ及び腸管感染症研究所(NICED)と協同して、コレラ等の感染性下痢症を制御するための様々な研究を行っています。
 新興・再興感染症研究基盤創生事業(海外拠点研究領域)『インド国コルカタ市を拠点とする感染性下痢症のリザーバー及び伝播と拡散に関する研究』では、以下の研究課題を実施します。

メタゲノム解析を活用した下痢症の感染経路の解明

患者の下痢便試料、及び患者の家族や近隣の健常者から採取したふん便試料、さらには患者が日常生活で使用していた生活水の試料について、メタゲノム解析を行います。
そして、下痢原因微生物のキャリアやリザーバーを見出し、感染経路を明らかにします。

コレラ菌の発生と制御に影響を及ぼす環境因子に関する研究

インド国で採取した環境水試料について、コレラ菌の生存期間を比較し、コルカタ地域の環境水に含まれるコレラ菌の生存に必須な因子を明らかにします。
コルカタ地域の環境水に存在するビブリオ属菌を調査し、コレラ菌特有の毒素や病原因子の遺伝子の分布状況を調べ、新型のコレラ菌が発生する過程を解明します。

コレラ菌流行株の変異、薬剤耐性、病原性に関する研究

近年のコレラ菌流行株は、毒素や付着因子に変異が生じており、従来の株よりも毒力が強くなっています。これらの変異が毒力の増強に直接関与していることを検証するため、変異株を作成し、その毒力を調べます。
コレラ菌及び近縁の病原菌の患者単離株について、病原因子等の遺伝子や薬剤耐性に関与する遺伝子領域の変異を調べ、治療方法の改善に役立てます。

下痢症原因微生物の感染予防と制御

コレラ菌の毒力を減弱させるキチン分解系阻害剤の作用機序を明らかにして、分子ドッキング解析を行います。そして、活性のさらなる上昇が期待できる化合物を化学合成し、新規コレラ治療薬の開発を進めます。
コルカタ市で接種が開始されたロタウイルスワクチンに関して、ワクチン接種後の下痢症原因微生物の変化を調べ、ワクチンの有効性や影響を評価します。

 これらの研究を通して、インド国における下痢症感染症の発生を制御し、インド国の人々のみならず、インドへ進出した日本の企業人や観光で訪れた日本人の健康を守ることを目指します。